私のご主人様
奥様の言葉に、お父さんは息を飲む。そして、視線を下へと下げていく。
『…はい』
『私はこの子に期待しているわ。なにせ、この家の主人の一番の執事であるあなたの娘なんだもの。いきなり洋服を揃えろなんて言わないわ。側におくことでこの子は自分で学ぶ。違う?』
『…いいえ。娘は、見て学びます』
『ならいいじゃない。琴葉、後はお前の意思だけよ?』
旦那様はなにも言わない。お父さんも、それ以上はなにも言えなかった。だけど、その視線は受けるなと言っていて、心配の色に染まっている。
…なら、断るべきだ。
『奥様、申し訳ありません。私には奥様に仕えるだけの力は…』
『琴葉、忠告よ。私の意見に逆らうのなら、お前はもうここには入れないわ』
『っ!?』
『いいでしょう、あなた。自分の所属について主人に逆らう使用人なんて、いらないもの』
奥様の言葉が冷たく、胸の奥に氷塊が落ちたような気がした。
初めから選択肢など、なかったのだ。奥様が決めたときから、それはもう決定事項で覆すことなど出来ない。