私のご主人様

奥様の言葉に、お父さんは息を飲む。そして、視線を下へと下げていく。

『…はい』

『私はこの子に期待しているわ。なにせ、この家の主人の一番の執事であるあなたの娘なんだもの。いきなり洋服を揃えろなんて言わないわ。側におくことでこの子は自分で学ぶ。違う?』

『…いいえ。娘は、見て学びます』

『ならいいじゃない。琴葉、後はお前の意思だけよ?』

旦那様はなにも言わない。お父さんも、それ以上はなにも言えなかった。だけど、その視線は受けるなと言っていて、心配の色に染まっている。

…なら、断るべきだ。

『奥様、申し訳ありません。私には奥様に仕えるだけの力は…』

『琴葉、忠告よ。私の意見に逆らうのなら、お前はもうここには入れないわ』

『っ!?』

『いいでしょう、あなた。自分の所属について主人に逆らう使用人なんて、いらないもの』

奥様の言葉が冷たく、胸の奥に氷塊が落ちたような気がした。

初めから選択肢など、なかったのだ。奥様が決めたときから、それはもう決定事項で覆すことなど出来ない。
< 13 / 291 >

この作品をシェア

pagetop