私のご主人様

「!?」

「動かないで。落としちゃうから」

抵抗しようとすると、鋭い視線が一瞬だけど向けられる。その睨みに、息が詰まり動けなくなる。

「それじゃ、お騒がせしました」

「お気をつけて」

なんで、気づいてくれないの?

どんなに願っても、周囲から向けられるのは羨望の目。どんなに私が暴れても、恥ずかしがっているようにしか見えない。

最初で、最後の、チャンスなのに。

奏多さんの胸を手で押すと、奏多さんは足を止める。

「琴音ちゃん、これ以上暴れないで。逃げようとしないで」

「…」

「帰るよ。季龍さんには黙っててあげるから」

奏多さんの顔は険しくて、抵抗する気を失ってしまう。諦めて奏多さんに体を預けると、止まっていた足は動き出す。

奏多さんが向かった先は路地裏で、そこには黒い高級車が止まっていた。

お坊っちゃまが、使ってた車…。

中から出てきたのは暁さんで、昨日以上に怖い顔をしていた。
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