私のご主人様
「琴葉」
目が、布で覆われそうなった直前、お坊っちゃまの声が響く。
ソファーから立ち上がったお坊っちゃま、ゆっくりと私に近づくと、耳元に口を寄せる。
「大丈夫、すぐ買い戻してあげるから」
「…ぇ」
そっと呟かれた言葉はそんな言葉で、何事もなかったように離れていくお坊っちゃまの背を見たのを最後に閉ざされた視界。
布を噛まされ、ヘッドホンのようなものをつけられた。
それで終わりかと油断したその時、足と肩を持たれて体が浮く。
そして、床に寝かされると、布のような感触がした。かすかに聞こえたジッパーを閉めるような音。
「では……………、あ…………………………した」
「……………………」
遠くなった声と光のせいで、何も分からない。
次の瞬間、体が浮いて担がれたことが分かる。
怖い。怖い、怖い、怖い、怖いっ…誰か…たすけて…。
誰かに届くこともなく、私は仕えていた家を、売られるという形で後にした。