私のご主人様

「暁、襖閉めて。あと、医者を呼んで。若には事後報告でいい」

「は、はい」

琴音ちゃんを刺激しないように、ささやくような声で伝えると、暁は急に動くことはせず、ゆっくり部屋を出ていく。

その襖が閉められると、息を吐く。

とにかく、琴葉ちゃんが動かなければいい。逃げ出すようなことになれば、琴音ちゃんはさらに錯乱する。

琴音ちゃんに視線を向けたまま、徐々に離れていく。琴音ちゃんは怯えたまま。でも、叫ぶこともしないし、逃げるようすもない。

距離を詰めなければ大丈夫か…。

「…っひあ」

「何もしない。大丈夫、大丈夫だからね」

まっすぐ俺を見つめる目は一瞬たりとも離れない。

恐怖に取りつかれたような行動は、自分を守るため。多分それは、あの馬鹿御曹司に受けた傷だ。

ここまでパニックを起こさせたトリガーはなんだ。少なくとも俺たちが離れるまでは落ち着いていたのに。

とにかく、医者が来るか、琴音ちゃんの緊張が切れるまではこのまま…。
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