私のご主人様
これ以上琴音ちゃんが壊れる前に。なんとか引き留めるために。
若は動かない。その顔は険しいままだ。
「なーに騒いでんだよ。頭に響くって…」
「伸洋さん…」
「酔ってねぇって。暁、誰か来たみてぇだけど?」
「!失礼します」
少しふらついた足取りで、頭を片手で押さえながら姿を見せた伸洋さんは、部屋の中の様子を見るとため息をつく。
玄関へ走っていく暁の足音が聞こえなくなった頃、伸洋さんは立ったままの若に歩み寄る。
「で、若は何しちゃったの」
「…なぜ俺に聞く」
「奏多、ここちゃんの視界塞いでんの、若を見せないようにするためだろ?」
「…はい」
「はいもんだーい。なぜここちゃんは若を見ると泣き出してしまうんでしょうか」
場の空気に合わない伸びた声。だけど、その問いは的確に的を射ていた。