私のご主人様
「若、何言ったの?」
時々、伸洋さんが怖いと感じることがある。笑っているのに、冷え冷えとした瞳は真実を見据えているように感じる。
そして、その視線を臆さず若へ向けるその度胸は決して俺にはできないことだ。
「…親に会わせるつもりはないと言った」
「それだけ?」
「今度逃げたら奴隷にすると言っただけだ」
伸洋さんの視線に耐えかねたのか、口を開いた若の言葉に、琴音ちゃんのパニックのトリガーが確実に若であることが分かる。
よりにもよってそんな話だったなんて。虚空を見つめる琴音ちゃんの瞳には光がない。
どれ程の絶望と恐怖に打ちのめされたのか、計り知れなかった。
「奏多さん、呼んできました」
「はいはい。失礼しますよ。…薬を投与して眠らせましょうか。薬は飲ませましたか」
暁を押し退けて部屋に足を踏み入れた医者は、琴音ちゃんを見るなり判断を下す。
薬という単語に若が訝しげに眉をひそめた。
「今夜だけ、飲ませてません」
「それも原因ですかね。あぁ、抱っこしたままで。出来てるじゃないですか。父兄代り」
「…そう、でしょうか」
「もちろん、完全ではないですよ。でもパニックをここまで静めたのはあなたの力でしょうねぇ」