私のご主人様
てっきり若に着いていくと思っていた伸洋さんは部屋を出ていこうとはせず、襖にもたれ掛かったままだ。
暁が困惑するが、迷いながら部屋に入ると、伸洋さんは襖を素早く閉めた。
「伸洋さん?」
「…奏多、暁、誤解してほしくないから一応伝えとくね。若がさっき言ってた、ここちゃんを返さないって言ったのは、返せないの間違いだ」
「返せない…?」
返さないってどういうことだ?
返さないというのは、分かる。言い方は悪いが琴音ちゃんは商品で、買われた身だ。無条件に手放すようなことはない。
だけど、返せないというのは、また、意味が違う。こちらの都合なら返さないでいい。では、返せないというのは一体…。
すると、急に表情を変えた伸洋さんは、笑っているのにその瞳は凍えるほど冷たかった。
まるで、見えない敵に向ける敵意そのものだ。
「ここちゃんを狙ってるやつがいる。それも、犯人がわからない」
「まさか、オークションにいた…」
「いや、それはない。裏のやることにしては仕事が目立ちすぎだ。可能性は1つ。分かる?奏多」