私のご主人様
「…で、これは俺の独り言ね。…若は若なりにここちゃんを守るつもりだ。さっきも、ここちゃんが逃げてあいつらに見つかることを恐れたから、わざときついことを言った。悪気はなかったことは分かってやって」
伸洋さんは背を向けながらもそんなことを言って、部屋を出ていく。
後ろ手に襖を閉めた伸洋さんが見えなくなると、部屋の空気が急に緩む。
「…伸洋さん、キレてましたね」
「久々だね…。琴音ちゃん寝てて良かった」
いつの間にか寝てた琴音ちゃんは、やっぱり不安な顔のままだ。
分かってた。琴音ちゃんがギリギリのところでなんとか踏ん張ってることくらい。
1ヶ月前…いや、恐らくそれ以上前から琴音ちゃんは耐えてきたんだろう。それがここ最近一気に降り積もった非現実的な出来事で髪の色が抜け、声まで失った。
もし、琴音ちゃんが本当に壊れてしまったら、どうなってしまうんだろう。
まだ出会って1週間足らず。なのに、不思議と放っておけないんだ。
「暁、風呂行っといで」
「はい」
ドタバタしたが、一応落ち着いた。暁に声をかけると、すぐに部屋を出ていく。
それを見送り、眠ってしまった琴音ちゃんを抱き直し、頭を撫でる。
「絶対に守るから。安心して、琴音ちゃんをもう二度と傷つけないなら。だから、壊れないで」
願うだけしかできない無力さをここまで恨んだことはない。
暁が戻るまで、琴音ちゃんを抱き上げたまま過ごした。
奏多said end