私のご主人様

「旦那様の付き人をしております。田部 宗次郎(たなべ そうじろう)と申します。ご挨拶が遅れてすみませんね」

手を差し出されたので握手を交わす。あ、あいさつっ!

慌ててタブレットを引き寄せ、打ち込むと画面を田部さんに見せる。

『葉月 琴音です。こちらこそ、ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。何か、ご用でしょうか』

「ご丁寧にどうも、ありがとうございます。大したことはないんですが、コーヒーのいい香りがしましたのでね。…もしよろしければ、そちらのコーヒー、頂いても?」

田部さんが指さしたのは、今淹れたコーヒーだった。

もらってくれるのは嬉しいけど、これではなんだか申し訳ない。

『淹れ直しますので、お時間いただけますか?』

「いえ、これで結構ですよ」

「…」

確かに待たせるかもしれないけどいいのかなぁ…。

でもこうしている間にもコーヒーは冷めていくわけで…。

マグカップを持ってくると、お盆ごと手に取っている田部さん。あれ?
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