私のご主人様

…後者なような気がする。

まだ逃げないと確信させるだけの信用を奏多さんと暁くんから得ていない。

それに、実際に逃げ出した日からまだ3週間経ってない。信用するには早すぎる。

…連れて来られて3週間目。もうそんなに経ってたんだ。お父さん、大丈夫かな…。

「… “あー”…」

やっぱり声もでないまま。

当たり前のようにここに馴染んできてしまっている。それじゃあ、ダメなのに。

決めたはずだ。お父さんのところに帰るって。信用させるために働くんだって。

なのに、何やってるの。私はここから逃げるために動くべきなのに。

なんで、優しくされて居心地がいいなんて思ってるの?

こんなんじゃダメなのに。ここの人たちは私をお金で買った人なのに。味方じゃ、ないのに。

深く息を吐く。…やめよう。考えたってきりがない。それに、今は逃げるときじゃない。

立ち上がり、部屋を出る。もう地図がなくても、私が動く範囲は覚えた。

掃除道具がしまってある押し入れのところまで行って、掃除機と延長コード、雑巾とバケツを出した。
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