私のご主人様
『琴葉』
声がする。温かくて、優しくて、ずっと聞いていたい声。
「…お母さん…?」
『琴葉』
あぁ、夢だ。泣いたときはいつもこの夢を見る。
もう、ここにはいないお母さんが会いに来てくれる不思議な夢。
姿は見えない。だけど、抱き締められているような気持ちになって、すごく安心する。
「お母さん…」
『琴葉、泣いたっていいんだよ』
「…でも、お父さんが…」
『琴葉が我慢してる方がお父さん、悲しいよ』
「…でも」
言えない。本当は使用人なんかやめたいなんて。奥様に仕えたくないなんて、言えない。
奥様はわがままで、子どもみたいで、すぐに周りに当たり散らす。だから、みんな嫌がってやめていく。
みんながやめていくのを見て、またやることが増えて、新しい人が来て、教えて、またいなくなって…。
そんなループをずっと、繰り返している。
私だってやめたい。だけど、私がやめたらお父さんが…。