私のご主人様

『琴葉、これどうしたの?』

ふわっと頬が温かくなる。

そこは、奥様が投げたマグカップで切った傷。

「奥様が、マグカップを投げたの」

『痛かったね』

「うん…」

頭を撫でてくれるような気持ちになる。

少しだけ前に進むと、温もりがそこにある。

あぁ、ここにいるんだ。見えないけど、お母さんはここにいる。

温もりだけを頼って抱き付くと、抱き締め返してくれる。

『琴葉、学校は?』

「ふわちゃんがね、一緒にいてくれる」

『意地悪されてない?』

「うん。大丈夫だよ」

『頑張ったね。高校は、もっと楽になるといいね』

「あのね、成夜も一緒なんだよ。だから、嬉しい」

『よかったね。安心だね』

「うん」

ずっとここにいたい。話したいこともいっぱいある。お母さんと一緒にいたい。

ここなら、我慢しなくていい。本当のことを言える。お母さんなら誰にも言わない。だから、言える…。
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