私のご主人様

「琴葉」

「っあ…ご、ごめんなさい」

ぼんやりしている間についていたらしい。先に車を降りたお父さんの不安げな顔に急いで車を降りた。

1ヶ月ぶりの屋敷はやっぱり大きくて、威圧感がある。

使用人の勝手口から中にはいると、使用人さんたちがみんな驚いた顔をした。

「琴葉ちゃん!」

「よかった。今日から復帰なの?」

「琴葉ちゃんが戻ってきてくれて助かった…。もう奥様手がつけられなくて…」

次々に言葉をかけてくるメイドさんたちは、すっかり安心しきった顔で息をついていた。

言いにくいな。やめるために来たなんて言ったら、この人たちは目が変わるのかな。また、怒鳴られるのかな…。

なにも言えないでうつむいていると、肩に手をおかれ、そっと引き寄せられた。

「すみませんね。琴葉はやめさせるんです」

「え?」

「今日は挨拶にだけ来たんですよ」

お父さん…。私を守るように抱き寄せてくれるお父さんの手は力強くて、なにも言わなくていいって言ってくれているようだった。

息をついて、お父さんの手を握り返すと、励ますように肩を叩いてくれた。
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