私のご主人様

…ダメだ。動かなきゃ。

あの人たちが戻ってきてこのままじゃ、何をされるか分からない。

震える足を叱咤して、立ち上がると服を脱ぎ捨てる。正直、正気ではないと思う。

こんな状況でお風呂に入るなんて、それこそ無防備過ぎる。でも、あの人たちの機嫌を損ねることの方がずっと怖い。

言われた通り、体と髪を洗い、湯船の中に入った。

膝を抱えるように座っているせいで全然くつろげない。…こんな状況でくつろげる方がおかしいか。

「…ほんとに、真っ白なんだ」

湯の中を漂う髪をすくう。手に絡み付く髪は白髪ばかりで、自分が黒髪であったことすら疑ってしまう。

なんだっけ、マリーアントワネットだっけ…。恐怖のあまり一晩で白髪になっちゃったってやつ。

それと一緒?いや、でも私前から白髪多くて、けっこう頑張って隠してたから、もとから全部真っ黒でもなかったんだった。

「…っ」

目も、口も閉じてお湯の中に頭までつかる。

このまま、ここで死んじゃえばいい。そうしたら、怖くない。怖がらなくていい。

未来に絶望しなくていいんだ。
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