聖なる夜の願い ~ホテル・ストーリー~
いくら観光名所だって言っても、散歩するにも限度がある。
見事にすることがない。携帯は静かに黙ったまま。
ホテルに戻って、時間つぶそうかな。
街中は、クリスマスイブだなあ。
ずっと楽しみにしてたのに。
二人で街を歩くのも。


フロントにはたくさんの人がいる。
皆カップルばっかりだ。

私の前に一組の上品な老夫婦がいた。
フロントに人に何か頼んでる。
「申し訳ありません。あいにく今日のような日は、どのレストランも満席でして……」

老夫婦が、ここのホテルに予約したんだけどディナーの予約を忘れて食事ができないって言われてるみたいだった。
私は、差し出がましいと思ったけれど、フロントの人に話してみた。

「あの……もしよろしければ、私達の分お使い下さい」
彼からメールが来て、夕食も間に合いそうにないと書かれていた。
だから、せめて食事だけでも無駄にならない方がいい。

「そんな、申し訳ありません」奥さんの方が、遠慮して断ってきた。
「あの……本当にいいんです。一人で食べても、美味しくありませんから」
老夫婦は、何度もお礼を言ってくれた。
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