クリスマスイブの贈り物
恋愛脳の愛奈の話は、新作コスメのことや会社の噂話でいっぱいだった。

ブランドバックが欲しいだの、特別な日は高級ホテルでディナーするのだとか、どこのお嬢様だよってことを平気で言った。

それは小さな苛立ちの種。
けれど、話を聞くたびに少しずつ成長していった。

「クリスマスは高級ホテルでディナーがいい。それで、夜景が見える部屋で夢みたいな一夜を過ごすの」

「はぁ? どこにそんな金あんだよ。それに俺、クリスマスとか稼ぎ時だし」

「誰が祐生(ゆうせい)とだなんて言ったのよ。俳優みたいないい男とそんな夜を過ごすのが夢なの」

「んだと? 俺よりいい男なんているのかよ」

「あはは。すっごい自信っ」

俺たちはよく喧嘩をした。仲直りも早かったが、喧嘩になるのも早い。
酷い時は、仲直りしている最中から次の喧嘩の火種がついた。

まるで、喧嘩と仲直りのサンドイッチ。
それでも、俺は仲直りをするたびに愛奈のことが好きになった。

そして好きになればなるほど、彼女が語る理想の男があまりにも自分とかけ離れていることに、俺は苛立ちを隠せなくなっていった。

クリスマスイブは朝から晩までびっちり仕事が詰まっている。
もちろん真夜中には手が空くけれど、愛奈の理想のような時間を過ごすのは不可能……ってか、ホテルで過ごせるような格好いいスーツだって持っていない。
持っているのはリクルートスーツが一着だ。

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