落ち葉を踏んで


何をやってもうまくいかない日がある。

その日は、通勤電車を降りてすぐ不運に見舞われた。

バッグに入っていたはずの折り畳み傘は見当たらず、急な雨のときにはたくさん並ぶ売店のビニール傘も売り切れで、駅から会社までの数分を小雨に濡れながら走った。

そのあとも、不運が私を待っていた。

昨日残業して仕上げた仕事に不備があり、出社早々上司に呼ばれた。

細部にまで目を向けるようにとくどくど言われ、もう新人ではないのだからと前置きして、



「こんなことを私に言わせるな!」 



周囲に聞こえる大きな声で注意された。

昇進したばかりで張り切っているのだろうが、仕事熱心のアピールのために部下を長々と叱るのは見当違いではないか。

朝から小言を言われるこちらの身にもなって欲しいものだ。

「申し訳ありません」 と素直に謝った私へ 「きっちり仕上げて、仕事で成果を見せなさい」 と、できる上司を気取った言葉があり、胸の奥で 「はぁ……見せしめに叱られる私ってかわいそう……」 とつぶやいた。

そのとき、ワンフロアで間仕切りのないオフィスの一角に統括部長がいたことが、私へのお小言が長引いた理由だろうと思っている。

上司の点数稼ぎに叱られた私は、なんて不運だろう。

表面は上司に逆らわない健気な部下を演じ、頭の中では悲劇のヒロインになりながら、やり直しの仕事に午前中の時間をとられた。




< 2 / 8 >

この作品をシェア

pagetop