落ち葉を踏んで
秋の気配が色濃くなった公園には、紅葉を楽しむ人、昼休みの休憩の人、散歩の人もいるけれど、私たちのベンチはあいていた。
銀杏の葉は今を盛りと色づき、木々を覆う葉と舞い散る葉で、ベンチの周りは黄色一色になっていた。
ツキに見放されたあの日から2年が過ぎ、もう何度会ったかわからないくらい私たちは同じ時間を過ごしてきた。
「彼と待ち合わせ? 嬉しそうな顔しちゃって」 と、同僚に冷やかされながら、昼の休憩時に会社を飛び出した。
今日も会社近くの通りの店の前には、長い行列ができていた。
宮野君と社内でも可愛いと評判の女の子が連れ立って並ぶ姿が見えて、「宮野君、やるじゃない」 と、心でつぶやきながら公園の方へ足を向けた。
ベンチに浅野さんの姿が見えて、駆け足で走り寄った。
「おまたせ。はい、今日はおにぎり。 あっ、おにぎらずでした。ご飯は握らずにのりで包むのよ」
「玲奈の手作り?」
「うん」
「へぇ、これが、おにぎらずか。いただきます」
浅野さんは宮野君のように 「レナ」 と名前を端折ったりしない。
「玲奈 (レイナ)」 と、ちゃんと呼んでくれる。
そんなところが好き。
「レイナさん」 が 「玲奈ちゃん」 に変わったのは、初めてふたりで遠出した先だった。
持参した手作り弁当を、それはそれは絶賛してくれた浅野さんは 「玲奈ちゃんの味付けは、僕の味覚に近いね」 と、感想を述べながらさらっと呼びかけた。
「玲奈」 と呼ばれたのは、初めて一日中一緒に過ごした夜だった。
それまでにも素肌を合わせて過ごした時間はあったけれど、ベッドの上で名前を呼ぶことはなかった。
足を絡めながら夜を過ごし、明け方の淡い光が差し込む部屋でキスを繰り返したあと 「玲奈」 と呼ばれた。
目を見て 「玲奈」 と呼んだ彼に緩やかに抱きしめられて、今までに感じたことのない安らぎを覚えた。
隙間なく溶け合うように抱き合ったあとの、まだ昂ぶった体は、彼に 「玲奈」 と呼ばれたことで安らかになった。
好きという感情が体中に広がっていった朝だった。
「玲奈、どうしたの?」
「えっ? うん……浅野さんに会った日は、いいことがあるから、だから私のお守り」
思い出に浸っていたことを悟られたくなくて、つくろったつもりが、さっきと同じことを口にしていた。
『黄金の缶コーヒー』 を手の中でコロコロと転がして、恥ずかしさをごまかした。
「僕も玲奈に会った日は、一日中元気が出るよ」
「私と同じだね」
「うん、だから、ずっと一緒にいたい。
玲奈がそばにいてくれたら、僕はいつだって元気でいられる」
私がさっき言いかけたことを、浅野さんは難なく口にした。
でも、私が思ったことと違っているかも、一緒に住もうと言う意味かもしれない。