落ち葉を踏んで
「一緒に暮らすってこと?」
「そうだけど……結婚して、同じ苗字になるのはどうかな」
「浅野さん……充彦さんに賛成」
「ありがとう……やっと名前で呼んでくれた」
私の頭に浅野さん、いえ、充彦さんの手が近づいた。
返事をしたから、頭を撫でてくれるの?
プロポーズという大事な場面にありながら、私はそんなことを考えていた。
「銀杏の葉っぱが、玲奈の頭に降ってきた。
とれた……それで、ご両親に挨拶に行きたいけど、都合はどうだろう」
あれ? 充彦さんの指が震えてる。
銀杏の葉をつまんだ彼に指先は、かすかに震えていた。
身構えることなく、普段と変わりない感じでプロポーズしたのかと思っていたけれど、充彦さんはそれなりに緊張していたらしい。
私の方が、よっぽど落ち着いていた。
「充彦さんの都合で大丈夫だと思うけど。
ウチの親、張り切るだろうな。 充彦さんに会いたがっていたから」
両親には、交際している人がいると伝えていた。
母親からは、早く会わせなさいと催促されてもいた。
「結婚の挨拶って、緊張するだろうな」
「充彦さんでも緊張するの?」
「するよ……ふぅ……」
緊張するよと言いながらも、「充彦さん」 と呼ぶたびに嬉しそうな顔をする。
恥ずかしがらずに、もっと早く呼んであげればよかった。
ため息をつく充彦さんの手をつかんで立ち上がった。
「大丈夫、私がついてるから」
「そうだね」
踏み出すたびに落ち葉がカサカサと音を鳴らす。
どこまでも続く黄金の道を、ふたりで並んで歩いた。
秋の空は青く、どこまでも澄みきっていた。