注文の多いクリスマスイブ
面倒くさがり屋の智宏(ともひろ)が、わざわざメッセージを送ってくるのには、何かそれなりの意図があるに違いない。
【迎えに行くから、家で待ってて】
その意図がまるで分からずに首を盛大に傾げていたら、再び携帯がピピッと可愛らしい音を立てた。
【勝手に準備して出掛けないように】
そんな、心配は無用だ。クリスマスイブ、しかも土曜日の今日はどこもカップルで一杯だろう。下手に出歩けば疲れるだけだと分かっている。
【とりあえず、シャワーでも浴びたら?きっと目も覚める】
もう夕方だというのに、私が起きたばかりだと、どうして分かるのだろう。不思議だ。
大学の同級生だった智宏とは、もうすぐ10年の付き合いになる。
出会ってから二年経った頃に、恋人になった。気の合う友達の延長線上で、いつの間にか付き合っていたというパターンだ。
社会人になって互いに忙しくなり、何となく同棲を始めたのは三年前。
今では互いに空気のような存在で、周りからは熟年夫婦と呼ばれている。
その関係は、クリスマスイブでも大して変化することはない。
一応、毎年私のリクエストで食事に行くけれど、だいたいムードの欠片もない普通のお店だ。今年は中華が食べたいと言っておいたから、彼が予約したのは恐らく行きつけの中華料理店だろう。