注文の多いクリスマスイブ

【朝、洗濯しておいた】

同棲を始めて、三年。一度だってそんなことがあっただろうか。料理はまだしも、洗濯物と部屋の埃は溜めても死なない、というのが彼の口癖だ。

【乾燥も終わってるはず】

勢いよく浴室の扉を開いてみれば、すっかり渇いた下着とタオルがぶら下がっていた。最近の浴室乾燥機は性能がいい。
いや、それより今は恋人の新機能に感心するべきだろう。彼も時には自発的に洗濯するらしい。
シャワーを浴びるべく、洗濯物を片付ける。面倒臭いから今日の下着は干してあるやつにしようと、黒のレースの下着を脱衣カゴに放り込む。

シャワーでさっぱりして髪を乾かした頃には、すでに日が沈みかけていた。
そろそろ出掛ける準備でも始めるかと思っていたところに、またメッセージが届く。

【化粧は手を抜かないように】

化粧品会社の社内SEとして働いている私は、毎日ばっちりメイクで仕事に行く。
でも、それは社内にオシャレでキレイな女子達が溢れているから、浮かないように頑張っているだけ。元々、メイクは好きでも得意でもない。
彼も私のそんな事情を知っているのか、休日の手抜きメイクにも、今まで文句一つ言ったことはなかった。まあ、単に私の顔に興味がないだけかもしれないけれど。

それが、今日はどうしてこんなにも注文を付けてくるのか。
私は頭を捻りながら、リビングテーブルにメイク道具を広げた。
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