聖夜の奇跡
ホテル
「大変申し訳ございません。直ぐに替わりをお持ちします」

「頼むよ、全く…」

割れたグラスを片付け終えた若いコンシェルジュは、折り目正しく頭を下げると丁寧にドアを閉じた。

「フン、悪くない対応だ」 

「ハイ。ロケーションは最高、調度品も趣味良く、過ごすお客様のアメニティを第一に考えておりますわ。
特にこのソファのスプリングは…」

「長澤君、君はホテルの回し者かね……」




今夜はクリスマス・イブ。

私は、東京湾のすぐそば、レインボーブリッジを望むホテルで、恋人とのロマンティックな一夜を過ごしている___

と言っても、
本物の “恋人” ではない。

今、件のソファに腰を沈めた彼は、大手から中小企業のM&Aを一挙に手掛ける(株)タチバナ・パートナーズ社の社長。

秘書一筋、勤続13年の私のボスだ。
< 1 / 13 >

この作品をシェア

pagetop