聖夜の奇跡
我々は今、恋人同士を騙って宿泊し、ターゲットであるこのホテルの予備調査に来ている。

こういった仕事上での同宿は何も初めてではなく、もう幾度も経験していた。

さっき彼は、ボーイの運んできたシャンパンを故意に落とさせ、クレームをつけた。

彼の常套手段。
タチの悪いクレーマーに、ホテル側がどう対応するかをテストしたのだ。

仕事とはいえ、人が悪い。

チラッと彼を一瞥すると、
何食わぬ顔で一息をつき、ネクタイを緩めて襟を寛げている。
その胸元につい目がいき、私は慌てて視線を逸らした。

「お水、入れてきますね」
「ああ、頼む」

カッと赤くなった顔を見られぬよう、急いで私はそこを離れる。

母方の祖母がスラブ系のハーフだったという彼は、灰青色の瞳を受け継ぎ、日本人離れした美しい容姿をしていた。

全く。

40も後半に差し掛かるというのにこの色香は……反則だ。 
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