聖夜の奇跡
社長
「君が自分の価値に全く気付いていないことだ___」

いつの間にか私の隣に座った彼は、スッと私の手を取りながら悪戯な目で覗きこむ。

「なっ……社長、冗談が過ぎます!」

私は少し強めに彼の手を払った。

実は彼、しょっちゅうこんな悪戯を仕掛けてくる。
そしていつも『冗談だよ』と微笑みながら手を引っ込めるのだ。

まるで私の気持ちを知って、翻弄するかのように。

そんなささいな戯れでさえ、私の心が揺れに揺れていることさえ知らないで……



が、今夜の彼はいつもと違った。
私の手をさらに強く握り返すと、甘い声音で囁いた。

「何故?今夜の私達は……恋人同士の筈だろう」
「そ、それは仕事上の設定でしょ!」

ぴしゃりと言ったものの、にわかに心は焦りだす。

彼らしくもない悪質なジョークに、鼓動が張り裂けんばかりに胸を打つ。


とうとう私は、悲鳴のように叫んでいた。


「本当に止めて下さい!
いくら社長でも……ゆ、許しませんよっ!」
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