【完】『傷跡』
ついでながら。
落窪物語というのはいわゆるシンデレラ・ストーリーの先駆的な書物で、十世紀の末には既に成立していたとされる。
この史実をかつてリマは女子大の頃に国文学の講義で聞いており、
(昔から人間関係ってのは、そういうものなのか)
などと、今も昔も変わらないであろう人類の営みに、奇妙な納得の仕方をしたことがあった。
が。
その話は今は余談でしかない。
というのも。
普段は安上がりだからといったような訳で、街の場末のラブホテルを使うような彼氏の浜口多聞がいきなり、
「今度のクリスマスイヴやけど、バロンスタンリーホテルの部屋とれたで」
と言ってきた際、あまりのギャップにふと連想してしまったからである。