聖夜に薔薇を
　反射的にそう答えてしまった後で、感じの悪い言い方をしてしまったなと少し後悔したがもう遅い。

「本当に申し訳ないです」

　けれど葛西はその端正な相好を崩して軽く苦笑しただけだった。仕事上、ささやかな八つ当たりをされる事くらい慣れているのかもしれない。彼が気分を害した様子のない事に花乃は胸をなでおろす。
　実は、いつも丁寧な物腰でてそつなく仕事をこなす葛西に憧れている部分もあったりするのだ。今後も仕事の付き合いがあるし、心証を悪くしたくはなかった。そもそも忙しいはずの彼が度々こうして様子を見に来てくれるのは、恐らくここで孤独に作業している花乃を気遣ってくれての事なのだ。

「大丈夫、間に合わせます。ただ打ち合わせの時間がなかったのでお客様の好みに沿ってるか不安ですが」

「それは問題ないと思います」

　葛西がそう言い切った瞬間にバイブ音が響いた。電話を取り出した葛西が片手をあげて合図した後、部屋の端の方へ向かって行く。少し早いけれど、多分デザートを出す時にかかってくる事になっているレストランからの連絡だろう。
　電話が終わったらバスタブに湯を張って、清掃のスタッフを呼んでもらおう。そう考えながら花乃が作業を勧めていると、背後から珍しく葛西の驚いた様な声がした。

「は？！……それでどうなった……止めたのか？……ああ」

　内容が気になりながらも花乃は手を止める訳にはいかない。

「……それはまあ仕方ない。後で私からもフォローしておく」

　電話を切ってしばらくの間の後、渋い顔をして葛西が花乃のそばに戻って来る。
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