聖夜に薔薇を
しばらくしてからまた律儀にベルが鳴り、葛西が部屋に入って来た。
小さめの紙袋を一つ下げて戻って来た彼は、その中から蓋付きのカップを二つ取り出す。
「お詫びにもなりませんがうちのカフェのコーヒーです。社内用のカップで申し訳ないですがどうぞ。」
花と緑の甘く青い香りに混じってふわりと珈琲の匂いが漂ってくる。
「別に葛西さんのせいじゃ……ここで飲んで大丈夫なんですか」
「溢さなければ大丈夫ですよ。清掃スタッフが来るのでそんなに時間はないですが、折角なのでこの夜景を見ながら一服と行きませんか。うちの中で一番眺めが良い部屋なんです」
その仕事用とは違う笑い方に、心臓が跳ねた。差し出されたカップを受け取りながら、せめて赤くなった顔が見られる事のないようにと願いながら花乃は視線を落とす。
この部屋の雰囲気が、気分を変に浮かれさせているのかもしれない。そう思ってみても彼の気遣いは嬉しかった。
学生の頃には贅沢な事は出来なかったし、社会人になってからのクリスマスはいつも仕事で忙殺されていて、恋人とレストランで食事をしてホテルで一泊なんてロマンチックな夜を過ごした事はない。
そんな自分が豪華な客室で葛西と二人薔薇に囲まれて夜景を眺め、コーヒーを飲んでいるなんて不思議な気持ちだった。残念な事にコーヒーが入っているのはプラスチックの蓋が着いたポリエチレンのカップで、二人共仕事着、特に花乃に至っては黒いエプロン姿だったけれど。
小さめの紙袋を一つ下げて戻って来た彼は、その中から蓋付きのカップを二つ取り出す。
「お詫びにもなりませんがうちのカフェのコーヒーです。社内用のカップで申し訳ないですがどうぞ。」
花と緑の甘く青い香りに混じってふわりと珈琲の匂いが漂ってくる。
「別に葛西さんのせいじゃ……ここで飲んで大丈夫なんですか」
「溢さなければ大丈夫ですよ。清掃スタッフが来るのでそんなに時間はないですが、折角なのでこの夜景を見ながら一服と行きませんか。うちの中で一番眺めが良い部屋なんです」
その仕事用とは違う笑い方に、心臓が跳ねた。差し出されたカップを受け取りながら、せめて赤くなった顔が見られる事のないようにと願いながら花乃は視線を落とす。
この部屋の雰囲気が、気分を変に浮かれさせているのかもしれない。そう思ってみても彼の気遣いは嬉しかった。
学生の頃には贅沢な事は出来なかったし、社会人になってからのクリスマスはいつも仕事で忙殺されていて、恋人とレストランで食事をしてホテルで一泊なんてロマンチックな夜を過ごした事はない。
そんな自分が豪華な客室で葛西と二人薔薇に囲まれて夜景を眺め、コーヒーを飲んでいるなんて不思議な気持ちだった。残念な事にコーヒーが入っているのはプラスチックの蓋が着いたポリエチレンのカップで、二人共仕事着、特に花乃に至っては黒いエプロン姿だったけれど。