聖夜に薔薇を
慎重に珈琲を口へと運びながら、隣に立つ葛西の横顔をこっそり眺める。
葛西がマネージャー職に就く前、花乃もまだ先輩のアシスタントの頃から何度も仕事で顔を合わせていても、個人的な話をした事は殆ど無い。歳は確か三十代半ばくらいのはずで、仕事の忙しさのせいで数年前に離婚しているとホテルのウエディングスタッフの女性から聞いた事がある。
「相原さん、クリスマスの予定は?」
唐突に葛西が言った。
「クリスマスってもう今日じゃないですか……仕事ですよ。もちろん明日も。この仕事に就いてからイヴとクリスマス当日に休めた事なんてないです。葛西さんだってそうでしょう?……ご家族や恋人に不満がられたりしませんか」
軽い牽制球の様な気持ちで、あえて一歩プライベートな事に踏み込んでみる。先に話を切り出したのは葛西の方なので、この流れで訊ねても不自然にはならないだろうという目算だ。
「確かに毎年仕事ですけど、残念ながら独り身ですし不満がる相手なんていないんです」
笑いながら答えるこの口ぶりなら、現状恋人もいないと思っていいんだろうか。そんな事を言われると、嫌でも期待してしまう。鼓動が更に早くなった。
「相原さんこそ恋人に文句を言われたりしないんですか」
「私も残念ながらクリスマスの都合を気にしてくれる相手なんていないですから」
そこまで言うと、花乃は意を決して身体ごと葛西の方を向いた。
「……なのでクリスマスは一緒に過ごせなくても、クリスマスの次の休みを一緒に過ごす相手に立候補していいですか。葛西さんの事をもうちょっと知りたいなあと前から思ってたんです」
葛西がマネージャー職に就く前、花乃もまだ先輩のアシスタントの頃から何度も仕事で顔を合わせていても、個人的な話をした事は殆ど無い。歳は確か三十代半ばくらいのはずで、仕事の忙しさのせいで数年前に離婚しているとホテルのウエディングスタッフの女性から聞いた事がある。
「相原さん、クリスマスの予定は?」
唐突に葛西が言った。
「クリスマスってもう今日じゃないですか……仕事ですよ。もちろん明日も。この仕事に就いてからイヴとクリスマス当日に休めた事なんてないです。葛西さんだってそうでしょう?……ご家族や恋人に不満がられたりしませんか」
軽い牽制球の様な気持ちで、あえて一歩プライベートな事に踏み込んでみる。先に話を切り出したのは葛西の方なので、この流れで訊ねても不自然にはならないだろうという目算だ。
「確かに毎年仕事ですけど、残念ながら独り身ですし不満がる相手なんていないんです」
笑いながら答えるこの口ぶりなら、現状恋人もいないと思っていいんだろうか。そんな事を言われると、嫌でも期待してしまう。鼓動が更に早くなった。
「相原さんこそ恋人に文句を言われたりしないんですか」
「私も残念ながらクリスマスの都合を気にしてくれる相手なんていないですから」
そこまで言うと、花乃は意を決して身体ごと葛西の方を向いた。
「……なのでクリスマスは一緒に過ごせなくても、クリスマスの次の休みを一緒に過ごす相手に立候補していいですか。葛西さんの事をもうちょっと知りたいなあと前から思ってたんです」