ひとつの輝き

とりあえず今日は気分が優れないから、マンションに向かって足を進めた。 



「美央!」 


聞いた事のある声に、あたしの体は硬直してしまう。 

背後から聞こえる声…

振り返えらなくったって誰かは分かる。 


今は来ないでよ… 



渉。 


一瞬でも、そう思った自分がいた。 


「美央?」

もう一度、呼ばれ肩に触れられたと同時に、あたしの体は少し震えた。 


「何?」 

「携帯…お前、下駄箱ん所に置き去りにして帰っただろ」 


あぁ…思い出した。 

今更、記憶が戻ってきた。 

靴を履きかえる時、丁度、母から電話があって切った後、下駄箱の所に置いて靴を履きかえたんだった。 

渉が持ってたんだ。 

だけどゴメン… 


今日は会いたくないや。 




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