スーペリアルームの恋愛倫理
そして足取りも重くホテルのエントランスへ足を踏み入れた。今日はここで私の誕生日パーティーがある。
私の様子を見兼ねた友人たちが、新たな出発の景気づけにと企画してくれたのだ。
ありがたい。
やはり、持つべきものは友だちだ。
——とは思うものの、出戻りな32歳を盛大に祝われるのは恥ずかしいものがあった。しかも高級ホテルだ。
このホテルは18世紀のヨーロッパ貴族の趣を再現しているそうで、床を見ればペルシャ絨毯、見上げればクリスタルのシャンデリア、それから大理石が敷き詰められた床壁。
目に入るすべてがアンティークというかクラシカルな感じ。貴族の邸宅を彷彿とさせる絵画や美術品にも圧倒されてしまう。
安上がりな居酒屋でいいのに。
と、思わずにいられない。
招待状に書かれてある部屋番号は最上階にほど近い、お値段も高い部屋。専用の鍵でのみアクセス可能な特別なフロアだということなのでフロントにひと声かけろといわれていた。そこまでベルが案内してくれるそうだ。
まもなく現れたベルとともにエレベーターに乗り込めば、なるほど専用キーを差し込んだ。
気後れして溜息が出てしまうよ。
なんでこんなところで。
そして部屋の前まで案内されチャイムを鳴した。