スーペリアルームの恋愛倫理
「待ってたよ!」
ん?
「———あれ?」
「誕生日おめでとう」
「なんで慶ちゃんがいるの?」
目の前に現れたのは親友の弟。小早川慶介(こばやかわけいすけ)。
だけど今日は慶ちゃんの姉でもあり私の親友でもある沙由美と、優華、それから詩織と一緒なはずだ。慶ちゃんがいるだなんて一言も聞いていない。
「どうぞ」
「沙由美は? てか、みんなは?」
「いいから入ってよ」
「だからなんで慶ちゃんがいるのよ」
「サプライズ!」
「はあ??」
「まあまあ、座ってよ」
状況を把握できないまま背中を押され、心地のいいフカフカの椅子に座らされた。テーブルにはバースデーケーキとシャンパンが置いてある。
「で、どういうことか説明してくれる?」
「姉貴に協力してもらった」
「沙由美はこないの?」
「うん」
「みんなも?」
「見ての通り俺ひとり」
慌てて携帯を取り出し沙由美に連絡を入れてみる。だってこんなの聞いてないよ? それに慶ちゃんとふたりっきりは気まずいのに…!
「もしもし沙由美!? なにこれどういうこと?」
『私からの誕生日プレゼント!!!』
「これのどこが…っ!」
『部屋代は慶介が出したんだよ』
「えっ!」
『驚いたでしょ? でも悪い気もしないでしょ? じゃーねー。あ、誕生日おめでとう!』
「ちょっと沙由美!!」
どうやら沙由美と慶ちゃんで仕組んだサプライズ。
これ以上の年を重ねたくない私の誕生日を祝ってくれるのは幼稚園のころから仲良しな沙由美の弟で8歳下。
つまり慶ちゃんのことは生まれたときから知っているし、教育実習に母校を選んだものだから中学生という多感な時期も知っている。
「ね?」
「ね? じゃないよー」
「いいじゃん」
「よくない。ここ凄い高いとこだよね?」
「お給料貰ってるから」
「こんなことにお金使わないで、ほらもっとあるでしょ?」
教育実習のとき、女の子に囲まれていた慶ちゃんを知っている。
そんななか、慶ちゃんは気にせず私に親しく話しかけてくるものだから、取り巻きの女の子たちからあれこれ嫌がらせされたほどだ。