二人だけの甘い聖夜を
イブの夜の街は、どこを見てもキラキラと眩しい輝きを放っていた。
街のイルミネーションも、店先の装飾も。
すれ違う人々もみんな楽しそうに見える。
待ち合わせ場所の横浜みなとみらいは、デートスポットとしてたくさんのカップルが訪れる観光地。
クリスマスイブの今日は、普段よりも多くの人で賑わいを見せている。
子どもたちが生まれる前は、私たちもよく横浜でデートをしたりした。
中華街で食べ歩きをしたり、赤レンガ倉庫を散歩したり、ランドマークタワーでショッピングしたり。
でも、出産、育児が始まってからは、出かける先はもっぱら子ども優先の行き先へ。
公園だとか、動物園、子どもが楽しめるところへ家族で出かけるのが定番になった。
暗くなってから、こうして一人のんびり街を歩くこともかなり久しぶりのこと。
普段は履かないヒールのパンプスなんか履いちゃって、何だか独身の頃に戻ったような気分になってくる。
約束の時間までまだ少し余裕があり、カフェに立ち寄りカフェラテをテイクアウトする。
コーヒーを片手にイルミネーションを眺めるのが、今の自分にはすごく贅沢な時間に感じられた。
もうすぐ着く、とスマホにメッセージが入ってから、待ち合わせ場所に向かった。
約束の時間、五分前。
まだ優斗の姿は見当たらず、待ち合わせのカップルたちに紛れて到着を待つ。
そろそろかなとスマホを手にした時だった。
「里佳!」
背後からした聞き慣れた声に、思わずビクッと肩を揺らしてしまった。
「ごめん、待たせた」
「ううん、大丈夫」
不思議なことに、名前で呼ばれて一瞬ドキッとしていた。
普段は子どもたちに『パパママ』と呼ばれるように、いつからかお互いを名前では呼び合わないようになっていた私たち。
それが癖みたいになって、二人の会話でも『パパママ』と呼び合っている。
だから、名前で呼ばれるのが何だか新鮮な感じがしてしまう。
そんなこと、なんてことない当たり前で普通なことだったのに。
「行くか」
「あ、うん」
頷いた優斗はスッと私の手を取り指を絡める。
冷え切っていた手が優斗の温かい体温に包まれ、またもやドキリと鼓動が高鳴ってしまった。
手を繋いで歩くのも、一体いつぶりだろう……?
そんなことを考えながら、二人きりで煌びやかな聖夜の街へ繰り出した。