そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
「でもね、今日少しだけショックだった」

「......え?」

「お兄さんから私のことを聞かれた時、慎吾一瞬戸惑ったでしょう?やっぱり私のことを彼女だと紹介するのが恥ずかしかったから?」

「違うよ!そんなわけない。
あれは、その......」


悲しそうな声色で慎吾の背中にもたれかかるように頭をのせた私に、慎吾は驚いたように振り向いて、あわてて否定する。


「いいよ、慎吾。分かってる。
私と慎吾じゃ世界が違うって。
慎吾と付き合えただけでも、私......幸せ」


否定はしたものの、言葉に詰まってしまった慎吾に弱々しく笑ってみせると、慎吾は大げさに首を横にふった。

それから、私の両肩をつかんで、まっすぐに私の目を見つめる。


「真由、違うよ。本当にそうじゃない。
まだ付き合ったばかりだけど、その、真由のことは真剣に考えてる」


飾り気のない慎吾の言葉に、まっすぐな瞳。 

慎吾は、私を本気で愛してるの? 

いや、そうじゃなきゃ困るけど、あまりにもまっすぐな慎吾に心が揺れる。

一瞬だけ、私の心の中には大してないと思っていた良心が痛んだけど、すぐに私は猫をかぶった。


「......じゃあ、どうして?」


慎吾が遊びで付き合える性格だとも思えないけど、あのとき、慎吾は一瞬だけ、ほんの一瞬だけだったけど。

それでも確かに、慎吾はお兄さんに私を紹介するのをためらった。

他の家族には全くそんなことなかったのに、一番上の兄にだけ。

それがどうしてかが気になる。
 

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