そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
「......また、前みたいになったら、と思うと、少しだけ、......こわくなった」

「どういう意味?」


言いにくそうに、ようやく口を開いてくれたけれど、何が言いたいのかよく分からない。

なんだか歯切れの悪い言い方。


「......前の彼女が、兄さんと浮気してたんだ」

「前って、あの?」


結婚直前までいっていたけれど、直前に逃げられたと噂の彼女。
 
慎吾が言うには、慎吾の一番上のお兄さんとその彼女が浮気していたらしい。

それに気づいた慎吾が彼女を問い詰めたら、認めたうえに、翌日には現金とパソコンを持って蒸発した、と。

......想像以上に悲惨。



「何か事情があったのかもしれないし、兄さんも悪い人ではないんだけど」


どんな事情よ。

どんな事情があったとしても、弟の婚約者を奪うなんてどうかと思うし、どう考えたっていい人には思えないんだけど。

兄と彼女は最低だけど、慎吾も慎吾だ。

婚約者を奪った兄を笑って許すってどうなのよ。


家族と同じく、悪い人ではないと再びフォローをいれた慎吾にはあきれる通り越して、だんだんイライラしてきた。







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