そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
「ああ、うん、そうだったね。
慎吾とはうまくいってる?」


私の質問はあっさりと流し、逆に質問を投げかけてきた兄御曹司。

うまくいっていると答えると、じゃあとまた別のことを聞いてくる。

無視するわけにもいかず、誘導されるように質問に答えていると、いつのまにかさりげなくテーブルの上で手を握られていた。


「そうなんだ、慎吾もいいやつなんだけど、少し足りないところがあるでしょ?
真由さんとはもっと早く会いたかったな。
お互いフリーだったら、放っておかなかったのに」


誘うときは断る隙を与えずに。
しかし二人きりになると、強引過ぎず、あえて聞き役に徹する。情報を引き出しながらも、スマートに持っていきたい方向に持っていく。

そして、肝心な決定打は相手の方から言わせるように仕向ける。

これだけセレブで、イケメンだったら、ひかれてしまう女も多そうね。


「そんな~本気にしちゃうからやめてくださいよ~。
慎吾さんは私にはもったいない方です。
他の方は考えられません」


あまりにも隙のない手口に内心感心しながらも、ドリンクを手に取るふりをして、さりげなく握られた手を外す。

偽物ゆるふわ笑顔をはりつけながらも、御曹司のプライドを傷つけないようにやんわりと、けれどはっきりと拒絶した。
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