そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
「頼んでもないのに、勝手にこんなことしないで。
真由に失礼だよ。
母さんにも言ったけど、真由は僕が選んだ女性だ。
聞きたいことがあれば自分で聞くよ」


......慎吾。


別に過去を知られたところで、上手いこと言って取り繕おうと思ってたけど。

あまりにも誠実で迷いのない慎吾の瞳に、良心が少しだけ揺らいだ。

責められるより、疑われるより、信じられる方が辛いのかもしれない。



「本気なわけ?
お前、女見る目ないだろ。
だから、兄さんが信じられる女性かどうか代わりに、」

「必要ないよ。
もうこどもじゃないんだから、何を信じるかは自分で決める。悪いけど、兄さんの方が信頼できない。
過去のことは許したけど、忘れたわけじゃないから」


そうきっぱりと言い放った慎吾に、慎吾の兄は一瞬驚いたような顔をしていたけど、すぐに不適な笑みを浮かべて立ち上がった。


「......へぇ。
そこまで言うなら、今日のところは引くよ。
今度こそ、上手くいくといいな」


今度こそ、というか、慎吾が前の彼女とダメになったのは、主にあなたのせいじゃないの?

自分でも分かっているだろうに平然とさっきみたいなことを言ってのける根性には、逆に拍手を送りたい気分になる。

あっけにとられる気持ち半分、後ろから背中を蹴り飛ばしてやりたい気持ち半分。

なんとも複雑な気持ちで、兄御曹司の背中を見送った。





< 63 / 80 >

この作品をシェア

pagetop