そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
「ごめんね、嫌な気分にさせて。
前にも話したけど、昔からあんな感じなんだ」


慎吾は困ったようにため息をついて、兄が去って、空いた席に座った。


「ううん、大丈夫」

「......これから先もさっきみたいなことがあるようなら、あの人たちとは決別してもいいと思ってる」

「だめよ!そんなこと。

......家族なのに、そんなさみしいこと言わないで。
思うところはあるかもしれないけど、慎吾のことを大切に思ってくださってるのよ」


それは困る。
遺産が入ってこなくなってしまう。

うっかり本音が出て、熱が入り過ぎたのをごまかすように、さももっともらしいことを付け加える。


「......そうかな、そうだね。
あのさ、ひとつ聞いてもいい?」


兄から弟へと同席者が変わったのを察知したウェイターが、何も言わなくても持ってきてくれたお水に手を伸ばした慎吾の瞳は、いつになく真剣だ。


「え......、なに......?」
 
 
さっき身辺調査の紙をちらっと見たときに、何か目に入ったんだろうか。それとも......。

一瞬で色んなことが頭に巡って、柄にもなく声が震えた。



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