そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
「正直に、答えてほしい」

「......うん」


ひどく真剣な表情で、わざわざ再度念を押ししてきた慎吾に、思わず唾を飲み込む。


「兄さんに、揺れた?」

「......はい?
まさか。なんでそうなるのよ」


いったい何を言われるのかと思ったら。 

そりゃデキル長男御曹司は魅力的だけど、あの手のタイプは扱いにくいし、ワンナイトでいいと思うほどの魅力は感じなかった。

予想外のことを言い出した慎吾に、拍子抜け。

つい素に近い方のしゃべり方になってしまった。


「いや、だって。
前の彼女が兄さんと浮気してた話もしたのに。
正直二人きりになってほしくなかった」

「ごめんね、慎吾の仕事が終わるまでだったし、密室に二人ってわけでもないから平気かと思って」


そう説明しても、全く納得のいってなさそうな顔の慎吾はさりげなく辺りを見渡す。

それに習って、私も失礼にならない程度にまわりをみると、カウンター席でキスをしている男女や、身を寄せあう男女。

スーツ姿の男性と、きれいなワンピースやスカートの女性が、あちこちで良い雰囲気になっていた。

barに入りたてはこんなでもなかったのに、......いつのまに。


< 65 / 80 >

この作品をシェア

pagetop