そこの御曹司、ちょっと待ちなさい!
「ごめんね、慎吾」  


デザートが食べられないのはもったいなかったけど、さすがにいくら私でも、この状況ではもうここには居座れない。

慎吾と目を合わせないように、席を立つ。


「......真由!」   


一度だけ慎吾は私を呼び止めたけど、後ろから聞こえてきた慎吾の声を無視して、早足でレストランを出た。
   




どうしてだろう。

セレブ妻になることは、幼稚園からの夢だったのに。
というか、ついさっき慎吾にプロポーズされるまでは、セレブ妻になる気満々だった。

そりゃ今までも多少の良心の呵責はあったけど、まさか慎吾のプロポーズを断るだなんて考えもしなかった。 

どうして、なんだろうか。

ようやく悲願達成というときに、嬉しさよりも申し訳なさの方が上回ってしまった。


自分でもそれがなぜなのかよくわからなくて、明確な答えが出せないまま、ただ時間だけが過ぎた。


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