涙のYOKOHAMA
すぐそばにいて、私が寿彦さんのいちばんの理解者だ。そう思っていたのに。

……あれは、二ヶ月前……

『今度の土曜日、広島に行く』

仕事終わりにビールで乾杯をした後、突然、寿彦さんが言い出した。

今度の土曜日は、デートの約束をしていた。給料日後のデートで、ランチバイキングを楽しみにしていたのに。

仕事なら、仕方がない。

『そっかぁ、残念。日帰り出張?』

仕事でもロクなことがなかった一日。寿彦さんと会えば、嫌なこともすべて忘れられると思ったのに。仕事でキャンセルなら仕方がないとわかっているのに、なんだか腹が立った。

腹が立ったけれど、八つ当たりはよくない。冷静を装い、言葉を選んだ。

『クライマックスシリーズ』

『は?』

クライマックスシリーズ……やと? 仕事やなく、野球を観に、私との約束をあっさりキャンセルするの?

『野球。行く予定の人がたまたま行けなくなって。チケット、譲ってもらった』

無表情の寿彦さんには珍しく、頰が緩んでいた。いつもの私なら、そんな表情の寿彦さんはレアで、胸が高鳴るのだけれど。

その日は、虫の居所が悪かった。

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