拗らせDKの偏った溺愛
お二人が学校に来なくても、日はどんどん過ぎていきます。
体育祭もとうとうあと1週間となり、放課後だけでなく昼休みも練習する人が出てきました。
とくにムカデ競走という10人で1チームの競技は毎日賑やかに練習しています。
何度も転びそうになりながらも、みんなが声をかけあって前に進むというのもあって、チームの皆さんは最近とても仲良しです。
綾乃ちゃんもムカデ競走のチームの一員なのですが、毎日擦り傷だらけになっているというのに、とても楽しそうです。
そして、放課後は練習だけでなくクラスの応援旗も作っています。
かなり大きめの布なのですが、美術部の佐藤さんがデザインしてくださった下絵は、龍と虎が布いっぱいの空間を使って向かい合わせで睨み合うという…ものすごく迫力ある旗です。
このクラスにぴったりというか、このクラスならではというか…。
そして、この旗の噂を聞きつけてほかのクラスから見にくる人が結構いらっしゃるのです。
それは佐藤さんの才能のなせる技と高村くんと虎谷くんの人気のすごさの両方が関係しているようです。
旗を見て感嘆の声を上げた方々が、必ず高村くんと虎谷くんの姿を探して…そして、見つけられないことにガッカリして帰って行くからです。
「それにしても、すごい迫力です…」
下絵にペンキで色付けされていくにつれ、その迫力が増してきた旗。
その旗を前に、いつの間にか無意識に呟いていたようです。
「だよな?すっげークオリティだよなぁ」
あると思っていなかった返事が斜め後ろからしたので、驚いて振り返ると、同じく体育祭実行委員の森本くんでした。
「あ、委員長!森本も!どう、この応援旗?」
佐藤さんがペンキのついた刷毛を手に満面の笑顔で聞いてこられました。
「佐藤、お前すげーな。委員長もすごい迫力だって今呟いてたぞ。な!?」
「は、はいっ!」
「ほんとに!?うれし〜!明日か明後日には完成すると思うから、楽しみにしてて!」
ますます笑顔になった佐藤さんが作業を再開したので、私と森本くんは体育祭前の最終打ち合わせをすることにしました。