拗らせDKの偏った溺愛



「で、ではまた明日の放課後に…」


そう言って高村くんから玄関扉へと体をクルリと半回転した私に、


「は?放課後じゃなくて朝だし」


とのお言葉が。


「え?」


思わずもう半回転して高村くんに向き直ってしまいました。


「お前さ、俺の下僕だろ?」

「は、はい」

「俺の下僕だから、明日から毎日、朝は俺を起こして朝飯を作る。昼は昼飯を買いに行く。放課後は掃除・洗濯・晩飯の用意。これ、お前の下僕としての仕事ね」


う。
なんと横暴な。

確かに公衆の面前で恩を仇で返してしまった罰は受けようと思いましたが、流石にここまでしなくてはならないものなのでしょうか…。

そして、朝ご飯や夜ご飯を私が作る…ご家族の方は?

…!

そういえば、いつかどなたかが

「リュウくん、一人暮らしだから…」

とおっしゃっていましたね!!

忘れていました。

余計なことを口走る前に思い出してよかったです。

そこまで考えたところで、竜也くんが視線をやや遠くに向けておっしゃいました。


「あ~あ、誰かさんのおかげで面倒な競技に参加しなきゃなんないってのに、その誰かさんは慣れない俺の一人暮らしを見て見ぬふりするわけだ?」


うっ、そこを突かれるとちょっとだけ怯んでしまいます。

障害物競走への出場をオススメしたのは私ですので・・・。


「それでなくても、まともな飯が食えないせいで、しょっちゅう体調を崩して学校を休んじゃう俺に、もっと無理をしろっていうんだろ?」


なんと!高村くんが学校を休みがちなのは、そういうことだったのですね!!

やっといろんなことが腑に落ちて1人で納得していると、


「優しい美咲は、同じクラス委員仲間の俺のことをアッサリ見捨てたりしないよな?」


と、今度はやや不安気な顔を私に向けておっしゃるのです。

ううっ・・・綺麗な顔にやや陰りが差すくらいの不安顔。

これはものすごく断りづらいです。

仕方なく返事の代わりに頭を縦に振ると、不安気だった高村くんの顔がパッとにこやかなものに変わりました。

こんなことを声に出して言うと絶対に怒られそうですが、なんだかかわいいです。

虎谷くんとの兄弟のようなやり取りを思い出して、ややほんわかした気持ちになった瞬間でした。


「で、それとは別に、言いつけを守ってないお仕置きはどうすっかな」


という一言に、私の頭は真っ白になりました。

お、お仕置き…?

一瞬であの中庭での出来事と、あの唇への感触が蘇ってきてゾワっとしたものが背筋を駆け抜けました。


「俺言ったよな?まず、お前はこれから先ずっと俺の言うことに”はい”ってだけ言うこと」

「は、はい」


確かにあの時そうおっしゃいました。

ですので、今日も逆らうことなくお供しましたし、部屋の掃除もしました。


「それから、あともう1つ。俺のことはなんて呼べって言った?」

「そ、それは、ですね…」


マズいです。

覚えてらっしゃったのですね。

その後、特に注意もされなかったので”高村くん”呼びで許されているものと思っていました。


「俺、名字で呼ばれるの嫌いなんだよ。だから、お前が俺のこと”高村くん”って呼んだ回数をちゃんとカウントしてるからな」


確かにあの時、”俺のことはリュウでも竜也でもいいから名前で呼べ”とおっしゃいました。

ただ、男子を名前で呼ぶという経験がない私にとって、なかなかにハードルが高いことだったので…注意されないことをいいことに、そのままにしていたのです。

それが、よもや許されていたのではなく、閻魔帳にカウントされていただけだったとは…!!

そして、お仕置きがあると言われていたのも同様に、このまま知らないふりで乗り切れると思っていたのですが…甘かったようです。

藤原美咲、絶体絶命の大ピンチですっ!!!



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