拗らせDKの偏った溺愛



そう考えると、今度はイライラではなくモヤモヤしてきた。

こいつマジで大丈夫かよ…。

そうしてるうちにリビングの床は隅々まで綺麗になり、俺が座っていたテーブルの上も鍵だけを残してスッキリ片付けられた。


「ふぅ」


スマホを見るふりをして様子を伺っていると、美咲が満足そうに息をついた。

かと思うと、急にソワソワし始めた。

なんだ?

キョロキョロしたかと思うと、壁にかかっていた時計を見て思案顔をした。

なるほど、時間的に家に帰りたいわけだ。

案の定、


「あの、時間も時間ですので、私はこれで…」


と言ってきた。

別に引き止める理由もないし、スマホの画面を見たまま


「ん、お疲れ〜」


と言うと、やや驚いた顔をしたものの、そのまま帰る用意を始めた。

このまま帰すのは普通すぎて面白くないな…。

席替えの時に言いつけた新しい仕事は”掃除を手伝え”だったから、ある意味、それについてはクリアした。

でも、新しい仕事が”掃除だけ”とは一言も言っていない。

真剣に考えて思いついたこと。

ヤバイ、我ながら良いアイデアすぎてニヤける…。

いつか貴紀に下僕から解放しろ的なことを言われたけど、そんなのはこの際、完全に無視だ、無視。

楽しいことはとことん楽しまなきゃだろ。


「俺の下僕だから、明日から毎日、朝は俺を起こして朝飯を作る。昼は昼飯を買いに行く。放課後は掃除・洗濯・晩飯の用意。これ、お前の下僕としての仕事ね」


俺が家のスペアキーを渡して美咲に言いつけた言葉だ。

さすがの美咲も不満気な顔をしていたが、


「あ~あ、誰かさんのおかげで面倒な体育祭に行かなきゃなんないってのに、その誰かさんは慣れない俺の一人暮らしを見て見ぬふりするわけだ?」


とか、


「それでなくても、まともな飯が食えないせいで、しょっちゅう体調を崩して学校を休んじゃう俺に、もっと無理をしろっていうんだろ?」


とか嘘八百。超適当なことを言ったら、途端に納得したような顔をした。

こいつはほんとうに危なっかしいな。

そのうち変な壺とか買わされてんじゃねーか・・・。

そんなことを思いつつ、最後に


「優しい美咲は、同じクラス委員仲間の俺のことをアッサリ見捨てたりしないよな?」


と、わざとらしい顔で言えば、とうとうコクンと頷いた。

よっしゃ、これで俺の思惑通り~


「で、それとは別に、言いつけを守ってないお仕置きはどうすっかな」


という俺の言葉を聞いた瞬間の美咲の顔は傑作で、大いに俺を満足させた。





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