拗らせDKの偏った溺愛
「へぇ、あのタイミングで後ろに飛んで俺の拳の衝撃をいなすなんて、お前マジでスゴイな」
さっきまでの大人な話し方ではありません。
きっと、裕司さんの本来の話し方なのでしょう。
「…正直、うまくいってホッとしてるけどな」
竜也くんは裕司さんの拳を直接ガードした腕をさすりながら答えてらっしゃいます。
なんということでしょう!!
私も格闘技の一つである空手を幼少の頃より嗜んでいる手前、一般の方よりはるかにリアルな格闘シーンを見慣れているはずです。
それでも全く分かりませんでした。
竜也くんは、あの一瞬でそんな高等なことを成し遂げていらっしゃったのですね…!!
でも、そんな竜也くんの顔に、初めて見る焦りのようなものが浮かびました。
「あ〜、アンタと決着つけるのはいいんだけどさ、今度じゃダメかな?」
「ほぅ、それはまた急にどうして?」
「いやぁ、アンタ強そうだからさ。決着つくのに時間かかりそうだろ?俺、今日は今から大事な用事があるんだよね」
なんとも場違いなセリフが竜也くんの口から出てきました。
「…」
裕司さんが、竜也くんの言葉の真意を探るように無言で見つめています。
と、その緊迫した一瞬の静けさを再びおぼっちゃまの金切声が無遠慮に引き裂きました。
「裕司っ!なにやってる!!さっさとやっつけろよ!!!僕も加勢してやる」
そういうと、おぼっちゃまが手元にあった金属の棒を槍のようにして、竜也くん目掛けて投げつけました。
「っ!!」
咄嗟にそれを避けた竜也くんに、裕司さんの容赦ない一撃が叩き込まれました。
ガッ!
鈍い音がして、
「ぐっっ」
くぐもった竜也くんの声が耳に届いた瞬間、無意識で叫んでいました。
「竜也くんっ!!」
瞬間、その場にいた全員の動きがピタリと止まりました。