拗らせDKの偏った溺愛

〈貴紀です〉


竜也が遅れて学校に到着した時も大騒ぎだったけれど、障害物競走に出たときはもっと大騒ぎだった。

僕の予想通り、ダントツの1位で走っている竜也を見て、グラウンドを囲む生徒全員が大盛り上がりだった。

これは今日一番の盛り上がりだな、と思っていたら、僕の予想のさらに上を行く大騒ぎが始まった。

竜也が競技中にもかかわらず、転んでケガをしたらしい美咲ちゃんを、こともあろうにお姫様抱っこして走っている。

と思ったら、彼女を救護用テントに運んで競技に戻ってきた。

僕の周りの女の子たちは悲鳴とも泣き声とも言えない声で騒いでいるし、男子も、なんだったら教師たちまでざわめいている。

当の竜也といえば、周りの騒ぎなんて気にも止めずに風船をつないだ紐を手に全力疾走し始めた。

うわぁ、竜也があんなに一生懸命走っているのを見たの、いつぶりだろう・・・。

救護用のテントの下では、美咲ちゃんが祈るように両手を握りしめたまま、まっすぐに竜也の背中を見つめている。

心なしか上気した頬で。


「ふふふ」


自然と笑みがこみ上げてくる。

竜也のやる気を引き出しているのは彼女で間違いなさそうだ。

竜也がコースを外れた時に落胆の声でいっぱいだったグラウンドは、いまや大声援で。

3位から2位、そしてついに1位に追いつこうとする竜也に期待を寄せている。

僕が小学校のころから知っている、いつも楽しそうで、一生懸命な竜也が戻ってきたみたいだ。

こんなに嬉しいことないね!




< 218 / 251 >

この作品をシェア

pagetop