拗らせDKの偏った溺愛
俺たち二人が2年3組の教室に着くと、もともと騒がしかった教室の中がさらに騒がしくなった。
だから〜、俺たちは見世物じゃねぇっての!
知ってる顔もあるけど、だいたいは遠巻きに見てコソコソ言ってる。
何を言われてるかについては全く興味ないけど、ヒトの顔をみながらコソコソ言えば、言われた方は気分悪いって思わねぇわけ?
まぁ、いちいち気にしてたらキリがねぇからほっとくけど。
席は決まってないみたいだし、適当に空いてる席に座ろうとしたら、近くにいた女たちに突然囲まれた。
「竜也くん、おはよう!」
誰だ、こいつ?
「はよ…」
「私、中沢葵。よろしくね!竜也くんと同じクラスになれて嬉しい!ねぇねぇ、連絡先交換しない?」
「しない」
「え〜、じゃあ、今日の放課後遊びに行こう!」
「行かない」
俺が素っ気なく返事してるのに、逆に腕に絡みついてきたかと思うと胸をぐいぐいと押しつけながら誘ってくる。
ガッツリメイクにクルクルに巻かれた髪。
ピカピカ光る唇と鼻腔をつく濃い香水の香り。
はぁ〜、こういう女が一番苦手。
どっちかっていうとクールビューティで清楚な雰囲気の女が好みなんだけど。
そうこうしているうちに、俺と貴紀の周りには女がどんどん増えていた。
それぞれが同じような質問や誘いをしてくるのを、勘弁してくれ…と思って、ふと教室の反対側に目線を向けた。
そこにいたアイツ。
……あの女だ。
間違いない、ひったくりのターゲットだったあの女がいる。
あのダサい前髪はそのままなのに、地味メガネはかけてないところを見ると、俺が踏んだせいで、やっぱり使いものにならなくなったのか…。
そりゃそうか、思いっきり壊れてたもんな。
それにしてもこの教室にいるってことはアイツも同じクラスってことだよな。
よりによって同じ学校の生徒だったとは…。
っと、危ない危ない。
思わず目が合ったけど、あの時の俺はフルフェイスのヘルメットを被ってたんだし、バレてないよな?
だったら、このまま俺が黙っておけばバレることはないはずだ。
そうして俺はさりげなく視線を元に戻して、知らないフリを決め込むことにした。