拗らせDKの偏った溺愛
貴紀は迷うことなく、足を俺たちの方に向けた。
チラッと後ろを確認すると、応援席の後ろの方に美咲がいる。
まぁそうだろーな。
貴紀が美咲を迎えに来ようとしているのは明白だ。
俺はそれを黙って見ていればいい。
貴紀が美咲の手を取って二人でゴールに向かうのを見守っていればいいんだ。
・・・
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「クッソ~!無理!!」
俺が突然大声を出して立ち上がったので、周りにいたやつらがびっくりして椅子ごとひっくり返りそうになっていた。
けど、今はそんなことに構っていられない。
貴紀が立ち上がった俺に向かってニッコリ微笑んだかと思うと、そのまま俺の横を通り過ぎて行こうとした。
「ストップ」
言葉で引き留めるだけじゃなく、貴紀の腕をつかんで引き留めた。
「悪いけど、美咲だけは無理。あいつを独占するのは俺だから」
貴紀の目をしっかりと見据えて、俺は静かに告げた。
貴紀は怒るわけでも、俺の手を振り払うわけでもなかった。
代わりに困ったな、という顔をした。
当然だろーな。
俺だって正直困ってる。
親友の恋を応援できないばかりか、その邪魔をしようっていうんだから。
自分が自分で嫌になる。けど、それでもこれだけは譲れなかった。
「しょーがないなぁ…それって美咲ちゃんを女の子として好きってこと?」
困り顔の貴紀に聞かれて俺も覚悟を決めた。
「そうだ」