拗らせDKの偏った溺愛
<美咲です >
高村くんと目が合ったのは、やはり偶然だったようです。
その後もしばらく綾乃ちゃんと竜虎のお二人を見るともなしにボンヤリしていました。
「美咲、始業式が始まるから講堂まで一緒に行こ〜」
校内放送があったからか、綾乃ちゃんがこちらへ向かってきます。
始業式が始まるようなので、二人で講堂まで移動することにしました。
2年生の教室は1年生と違って2階にあるので、他の人たちもゾロゾロと階段を降りて行きます。
他のクラスも合流しているので、階段はとても人の密度が高くなっています。
「きゃあっ!!」
突然、横にいた綾乃ちゃんから悲鳴が聞こえかと思うと、その体がズルッと下へ落ちそうになりました。
私はとっさにその体を支えようと手を伸ばしたのですが、慌てたせいか自分のバランスまで崩してしまいました。
階段を踏み外すかもっ!!
と思いました。
それでもなんとか綾乃ちゃんだけは支えなくてはと必死で体をひねろうとした瞬間でした。
力強い腕が私の体と綾乃ちゃんの腕を後ろから掴んで支えてくれたのです。
「っぶねーなぁ」
声の主を振り返ると、さっきまで女の子たちに囲まれていた高村くんです。
「あ、ありがとう!!」
目をハートにした綾乃ちゃんが、高村くんに支えられて体勢を整えると可愛くお礼を言いました。
私はと言うと…高村くんの腕は私の背中から胸にかけて伸びていまして、ですね。
わかっているんです、わかってはいるんですよ?
こんなに混雑した階段で、たとえ私一人とはいえ踏み外したら最後、人間ドミノ倒しのような事故が起きてしまいます。
そんなことになれば大惨事です。
始業式どころの話ではありません。
下手をすれば怪我では済まないかもしれないのです。
彼はそれをいち早く察知して助けてくれた大恩人なのですがっ!!
でもっ!それでもその大きな手が掴んでいるのは私の胸でしてっ!!!!!
「おい、お前も…」
高村くんが綾乃ちゃんを支えていた手を離してこちらに向き直ったことで、私と彼の目が合ってしまいました。
頭の中が真っ白になり…
「キャァァ!!」
と叫ぶと同時に無意識に動いた手が高村くんの頬へ。
しかもクリティカルヒット。
もちろん
パシン!
という乾いた音もして…。
「ってぇ〜」
その美麗な眉をひそめながら、私が平手打ちした頬を押さえる姿は、ともすれば色気さえ感じるのですが…。
「お前…」
私をにらんだその目は竜と呼ぶに相応しい、畏怖さえも感じさせる殺気が滲んでいますっ!!!
「ご、ごめんなさい!!」
私は必死でそれだけ言うと、事の顛末を見届けていた同級生たちの間をすり抜けるようにして階段を降り、走って逃げたのでした。