拗らせDKの偏った溺愛
<竜也>
遡ること数分前。
校内放送で講堂に向かうよう指示があったから、教室にいた奴らが一斉に廊下へ出て行く。
こういう時、俺と貴紀はたいてい一緒に教室や裏庭でサボってるけど…。
今日はなんとなく、俺も講堂に行こうかな、という気分だった。
「あれ、始業式に行くの?」
貴紀が不思議そうに聞いてきた。
「あー、なんとなく?」
俺が曖昧な顔をしたからだろう、
「めっずらしー、雨でも降るんじゃない?」
クスクス笑いながら貴紀も俺と並んで歩き始めた。
「なに、もしかして気になる子でもいたとか?」
この一言に、なぜかアイツの顔が頭に浮かんでドキッとした。
ただ、それを顔に出すのはなんとなく癪だったから、咄嗟になんでもないフリをした。
「別に…。女なんかどれも同じにしか見えねぇし」
「あれ?僕、“気になる子”とは言ったけど、”気になる女の子“とは言ってないよ?竜也はどうして女の子だと思ったのかな〜?」
さらにクスクス笑いながら言ってくる。
チッ、これだから幼なじみは困る。
元々察しがいいヤツだけど、付き合いが長い分、俺の考えてることが結構な割合で貴紀にバレる。
今回も俺の微妙な表情でも読んだのか、機嫌良さそうにしてる。
はぁ〜
めんどくせーけど、後であの女のことを説明するしかないか。
「ここじゃ言えないから後で」
俺が短く言うと
「ふーん、ワケありか〜」
なんて、わかったようなことを言うからちょっと腹が立った。
だから俺は貴紀を教室に置き去りにして、生徒でごった返す階段を一人で下りていった。