拗らせDKの偏った溺愛
その静けさを最初に破ったのは、さっき助けた小さい方の女だった。
「リ、リュウくんごめんね!美咲、きっとビックリし過ぎたんだと思うの!!だってまさかリュウくんに助けてもらうとか、私だってビックリしたもん。あの子も悪気はないはずだから許してあげて!!」
「……」
だから?
ビックリしたら助けた相手を殴って逃げていいってことか?
静かに湧き上がってくる怒りを感じながら無言を貫いていると、
「だよね。あんな風に助けられたら、普通はビックリするよね?しかもその相手が竜也だよ?尚更ビックリするって」
よくわからない同意の声を上げながら俺の肩に手を乗せてきたのは、置いてきたはずの貴紀だった。
すると、さっきまで成り行きを見ているだけだった周りのやつらも貴紀の言葉に同意して口々に言い始めた。
「だってさ、あの竜也くんに抱きしめるみたいにして助けてもらってたよね!?」
「うん!すっごく羨ましい〜!」
「さすがリュウさん、カッコいい!」
「でも、あれが自分だったらと思うと、嬉し恥ずかしすぎてヤバイかも〜」
周りが好き勝手言うのを聞いて余計に腹が立ってきた。
なんだ?
小さい女や貴紀だけじゃなく、ほかのやつらまで俺が殴られたのは仕方ないって言いたいのかよ!?
「いくら俺が誰かを助けるようなキャラじゃないからって、勝手に驚いた挙句に殴って逃げるとかありえねー」
「えっ!?」
俺の言葉に貴紀が驚いた顔をした。
周りにいるやつらを見回すと全員が似たような顔をしている。
(((((いやいや、そこは超イケメンの竜也くんに助けられて恥ずかしかったから、咄嗟にわけわかんない行動に出たんじゃ…?)))))
(((((竜也くん天然だったんだ…)))))
「チッ!」
俺はイライラするのを止められず、軽く舌打ちしてから階段を駆け下りた。
もちろん行き先はあの女のところだ。
…アイツ絶対に許さねー。
俺を"ビックリしたから仕方ない"とかいうくだらない理由で殴っといてタダで済むと思うなよ。
逃げたアイツを探しながら、俺の中で怒りがさらに湧き上がってきていた。